家系の法則-1、ジェノグラムで分析される家族関係(2)

(2)世代を越えた繰り返し現象

アルコール依存症、近親相姦、身体症状、暴力、自殺といった多くの症状パターンは世代を越えて家庭内に伝承される傾向があります。このような繰り返しがみられたら、自重することが必要です。

俳優のピーター・フォンダ家の場合、ピーター・フォンダは、母親が自殺して一年も経たないうちに、自分の腹を銃で撃ち、マーガレット・サリバン(父ヘンリー・フォンダの離婚した妻)の娘ブリジットは、母親が自殺して一年も経たないうちに自殺しています。自殺者が一人出ると、家族の中に自殺をしてもいいんだという風潮ができあがってしまう事があるようです。

劇作家ユージン・オニールの場合は、数世代にわたってアルコールと薬物の濫用が見られた。アルコール依存症と薬物濫用は、各世代にわたってみられ、世代を下っていくにつれ自己破壊の度も増していました。この影響もあるのか、結婚も不安定になりがちでした。ユージン・オニール自身は三度結婚し、長男も三度結婚を繰り返して40歳で自殺しています。オニールは、「過去のパワーが未来を決定してしまうことに気づいていたという。そこで、そんなことをしても無駄だということは承知の上で、現家族の影を「お祓い」しようとして、多くの劇の中で自分の家族を再現しようとしたらしい。

夜への長い旅路

タイロン(オニールの父親がモデル)「もう過去のことに触れないように」

メアリー(オニールの母親がモデル)「そんなことできないわ。過去は現在でしょう。未来でもあるのよ。みんな過去から逃れようとするけれど、人生が許してくれっこないわ。」

ジェノグラムを通じてこのパターンが認識されたら、次の世代まで持ちこさないようにすることが大事です。世代ごとにパターンを繰り返すとより強固になることがあるようです。

(3)家族変動を引き起こす臨界期(重大な出来事が重なって起きてくる時)

さまざまな問題が引き起こされるきっかけとなるのは、家族の重大な事件、結婚・出産・入学・独立・病気・失業などを契機となる場合です。そして重大事は、偶然の一致であるかのように同じ時期に重なって起こることが知られています。

フロイト家の臨界期(重大な出来事が重なって起きてくる時)

最初の臨界期は、ジークムント(精神分析で有名なフロイト自身)誕生の前後。1855年、父親ヤコブはフロイトの母アマーリエと結婚しました。7ヵ月後、ヤコブの父親が死亡しました。さらにその3ヵ月後に家族にひいきにされたジークムントが生まれているのです。1年後、次男ユリウスが誕生したが8ヶ月で亡くなっています。2年後、ヤコブの先妻との間の息子たちがイギリスへ移住し、その1年後、ヤコブは家族全員を連れてウィーンに転居しています。

二度目の臨界期は、1895年から1896年までです。フロイトお気に入りの娘アンナは1885年12月3日に生まれています。翌年、フロイトの義妹ミンナが同居し始めています。同じ年の12月23日、ジークムントの父親が亡くなっています。その死について、フロイトは男の一生の中で父親の喪失ほど重大で動揺することはないと語っています。フロイトは、この時期に最初の精神分析の論文「ヒステリー研究」を出版し有名な自己分析を始めているのです。

多くの事件が起きることによって、精神的に動揺してさまざまな家族の問題が起きてきやすいのではないかといわれています。

(4)記念日反応といわれる世代を越えた繰り返し現象

世代を越えた家族の繰り返しパターンは、記念日反応という形でセッティングされていることが知られています。家族の一員が、ライフサイクルのある時点に達すると前の世代で起きたことと同じことが起こるような予感におそわれることがあります。二世代にわたって、結婚直後に大切な家族が亡くなったとすれば、次の世代は同じことが繰り返されることを無意識のうちに恐れるようになるという。

記念日反応を研究した精神科医ジョージ・エンゲルは、双子の兄が心臓発作でなくなった一周忌の前日に心臓発作にみまわれています。また、父が58歳で心臓発作で亡くなっているため、この年齢が近づくにつれ、その年齢になったら死ぬのではないかと不安が増すのを自覚したというのです。心理的な負荷、ストレスが記念日という形で襲ってくるようです。

1963年暗殺でなくなった米国大統領ジョン・F・ケネディ家の場合、暗殺された11月22日は一家にとって特別の日であったという。その日は、曽祖父の命日であり、祖父パトリック・J・ケネディが生後まだ6ヶ月なのに、ケネディ家唯一の男性になってしまった特別な日であり、情緒負荷のかかる日となっていた。その日にジョン・F・ケネディが暗殺されたということは、心理的負荷だけでは説明できません。しかも、心理的負荷はジョン・F・ケネディの死後、家族にふりかかったのか、弟テッドは7ヵ月後飛行機事故で背骨を折り、妹パットは暗殺された日に別居しています。弟テッドは、1968年兄ロバートが暗殺された12ヵ月後、自動車事故で同乗者を溺死させています。

家族の記念日反応には、心理現象だけでは説明できない不可思議なものがあるのです。

(まとめ)

家族は繰り返されるのです。ある世代で起きたことは、たいてい次代でも反復されます。「家族パターンの多世代伝承」といわれるもので、知らず知らずのうちに同じ問題が世代から世代へと演じ継がれるのです。世代から世代へ継続的に、あるいは一世代おきに、家族の機能や関係や構造パターンをジェノグラムで探ることができます。ミニューチンはシステムが変化できる条件として次の3つのことを指摘しています。心に留めておくことが大切でしょう。

  1 適切な世代間境界の存在
  2 問題解決に主に携わる成員間に連携が存在すること
  3 問題解決に向けての力(パワー)の存在