因縁の考え方は、西洋にもある。「ジェノグラム」とは何か?

家族再興-ジェノグラムを知っていますか(因縁の考え方は、西洋にもある)?

「因果応報」、「厄年」、「先祖の因果が子に報う」という言葉は、仏教の広まった民族ではあたりまえのように信じられてきた。最近は、科学的思考がひろまって迷信のように思っている人もあるかも知れないが、それとなく気にしている人は多いであろう。

それだけでなく、「この考えは、西洋にもある」といったら驚かれるでしょうか。西洋世界は、因縁とはまったく違う別の世界だと思われている人が多いのではないでしょうか。少々ニュアンスは違うが、「親の因果が子に報う」に近い考え方が現代の米国にあるのです。「ジェノグラム」である。

ジェノグラムは、三世代以上の家族メンバーと、その人間関係を盛り込んだ家系図である。家族に関しての情報が図示されて、複雑な家族模様や病態や症状が家族の時の流れとともにどのように出来上がってきたかがわかるようになっている。

ジェノグラム(家族関係図あるいは世代間関係図)は、関係を記入した西洋の家系図と呼ぶべきもので、今では精神医学、臨床心理学、ソーシャルワーク、社会福祉などの分野でなくてはならないものとなっている。ジェノグラムは、今から30年ほど前日本にも紹介されている。モニカ・マクゴールドリック/ランディ・ガーソンの「ジェノグラムのはなし」石川元/渋沢田鶴子訳東京書籍1988(2008年に新装本が出版されている)をもとに、ジェノグラムを紹介してみたい。

ジェノグラムは、家族の構造をあらわす地図のようなもので、手に取るように家族が図示される。家族の生活上のできごとや人間関係と健康・不健康のパターンがシステミックに理解できる。

家族は、人間が帰属する最初の、そして例外はあっても最強のシステムです。少なくとも三世代を含む親族全体のことです。家族メンバーは身体的・社会的・情緒的機能という点で相互に依存し合っているので、システムの一部が変化すると、他の部分にも影響が波及します。さらに、家族内の相互作用と人間関係は際限なく、入れ替わったり、パターン通りに繰り返したりしています。こうしたパターンの反復があるからこそ、ジェノグラムで予測を立てることができるのです」と、述べられている。

ジェノグラムは、マレー・ボーエンの家族システム論(1978)から派生したもので、ジェノグラムのパターン分析はボーエンの理論に依拠するものが多いという。

家族システム論は、家族をシステムとみる考え方で、システムの要素そのものよりも要素間の関係に注目して、家族を何世代にもわたる自然の社会システムであると捉える。家族の機能が、個人の発展や幸福に関わっているとみる。家族は個人の果たす役割を決定し、各個人の差を調整する。個人の異常な行動は、家族システムの平衡が保たれていないことを示すものである。問題の根源は、誇示ではなく家族相互関係にあるので、単位としての家族が治療に介入されるべきである。こうした考え方を家族に応用してプラスであるのは、家族関係が単純なものではないからである。たとえば、母子の共生関係(べったり)の裏には、父親側の問題があったり、兄弟げんかの陰には、それぞれの親の代理戦争があるなど、交錯した家族模様は枚挙にいとまがないほどであり、十把ひとからげとして扱わないととても扱いきれるものではない」と語る。

ジェノグラムでは、同時代の状況をヨコに、世代を越えて見られる伝承ぐあいはタテにというふうに表してあり、家族の関係や機能に関する情報を現在と過去の両次元にまたがって検討することができる。

家族システムを年代をさかのぼって検討し、どのようにライフ・サイクルの段階を辿ってきたかを見定めれば、現在の問題を家族発展のパターンに照らしてとらえることができる。前の世代からのテーマ(重圧、ルール、病気など)の伝承に反復パターンが見えてくると、「歴史は勝手にしゃべり始める」という。

 

① 家族は繰り返されるものです。ある世代で起きたことは、たいてい次代でも反復されます。「家族パターンの多世代伝承」といわれるもので、知らず知らずのうちに同じ問題が世代から世代へと演じ継がれるのです。世代から世代へ継続的に、あるいは一世代おきに、家族の機能や関係や構造パターンをジェノグラムで探ることができる。

 

② 家族変動を引き起こす臨界期(重大な出来事が重なって起きてくる時)。さまざまな問題が引き起こされるきっかけとなるのは、家族の重大な事件、結婚・出産・入学・独立・病気・失業などが契機となる場合が多い。そして重大事は、偶然の一致であるかのように同じ時期に重なって起こることが知られている。このような事件による影響は、関連しあって、ストレスの蓄積、記念日反応と呼ばれている過去の記憶、心理的に衝撃的なダメージとなって表れる。厄年といわれる現象もこの臨界期の一種であろう。

 

③ 記念日反応といわれる世代を越えた繰り返し現象。世代を越えた家族の繰り返しパターンは、記念日反応という形でセッティングされていることが知られている。家族の一員が、ライフスタイルのある時点に達すると前の世代で起きたことと同じことが起こるような予感に襲われることがある。

家族システム論から分析すると、上のような法則性があるという。本の中では、多くの著名人の家計図を分析して、先祖の内容が子孫にどのように影響しているかをくわしく記述している。人間の人生は、一人だけで生きているものではなく、先祖との深い絆のもとにあることを示唆してくれる。先祖の失敗は、子孫に同じ苦しみとなって顕われ、子孫を苦しめている状態がよくわかる。因果応報は、人類共通の現象だと解釈すべきであろう。

そして、多くの世代を越えた問題は、この本によれば『適切なアドバイスと協力があれば家族システムは修復できる(ミニューチン)』と結論付けられている。